ビルマニシキヘビの食後の代謝・生理について、文献の報告から
これは文献の報告を、当サイトの判断を加えずに引用したものです。実際の給餌については、かかりつけの獣医師や購入先の店にご相談ください。
ここで引用するのは、特定の種を対象にした少数の研究です。ほかの種に同じことが当てはまるとは書いていません。餌の量・回数・与える時期についての助言でも、必要な栄養の量を示すものでもありません。
ここで引用するのは、ビルマニシキヘビ(Python bivittatus)を使った 3 つの実験の報告です。いずれも、しばらく餌を与えなかった個体に体重の 15〜30% ほどの大きな餌 (げっ歯類)を食べさせた個体の測定を含み、食べた後の体の変化を調べています(数字は各実験で使われた条件です)。 出典3は、この種を、食事に伴う極端な代謝の変化を調べるためのモデルとして扱っています。 出典1は、この種の食後の代謝の大きな変化を調べるための MRI 手法が使えるかどうかを評価しています。
1. 食後に、ほとんどの臓器で重さが増えた(出典1)
出典1は、業者から入手した 12 頭(約 70 か月齢)を、いずれも 90 日以上絶食させたうえで 2 群に分けました。 6 頭はそのまま絶食、6 頭は体重の約 25%の餌を食べさせ、約 48 時間後に MRI を撮り、その直後に臓器の重さを量っています (体重は絶食群 1294 ± 52 g、摂食群 1282 ± 38 g)。
| 臓器(体重 1 kg あたりの重さ、g) | 絶食群 | 摂食群 | 差 | 有意差 |
|---|---|---|---|---|
| 肝臓 | 11.042 ± 0.38(n=5) | 21.07 ± 2.06(n=6) | +90.8% | あり(P < 0.001) |
| 胃 | 17.978 ± 1.21(n=5) | 27.12 ± 1.25(n=6) | +50.8% | あり(P < 0.001) |
| 膵臓 | 0.886 ± 0.048(n=5) | 1.33 ± 0.12(n=6) | +50.1% | あり(P = 0.007) |
| 小腸 | 18.238 ± 1.88(n=6) | 30.496 ± 0.918(n=6) | +67.2% | あり(P < 0.001) |
| 腎臓(左) | 2.368 ± 0.197(n=6) | 3.808 ± 0.187(n=6) | +60.8% | あり(P < 0.001) |
| 腎臓(右) | 2.345 ± 0.12(n=6) | 3.978 ± 0.266(n=6) | +69.7% | あり(P < 0.001) |
| 心房(左右の合計) | 0.433 ± 0.035(n=6) | 0.602 ± 0.055(n=5) | +38.9% | あり(P = 0.036) |
| 心室 | 1.965 ± 0.074(n=6) | 2.436 ± 0.2415(n=5) | +24.0% | なし(P = 0.124) |
| 胆のう | 10.59 ± 1.01(n=4) | 9.232 ± 0.75(n=5) | −12.8% | なし(P = 0.32) |
出典1、Table 1。値は平均 ± 標準誤差。心室と胆のうは、統計的に有意な変化ではありません。 臓器ごとに n が違うのは出典の表のとおりです(出典の本文は全臓器 n = 6 と書いており、表と食い違っています。ここでは表の値を載せています)。
2. 肝臓のミトコンドリア呼吸が高かった(出典1)
同じ 12 頭の肝臓から単離したミトコンドリアで、酸素消費を測っています(各群 n = 6。出典の要旨は hepatocytes=肝細胞と書き、方法の節はミトコンドリアの精製と書いています)。 出典1は、全体として摂食群のほうが絶食群より有意に高かったと報告しています。
| 測定した状態(出典の名称のまま) | 絶食群 | 摂食群 | 有意差 |
|---|---|---|---|
| State 2 | 44.3 ± 3.6 | 96.9 ± 11.4 | あり(P = 0.034) |
| State 3 | 132.6 ± 53.3 | 1840.7 ± 273.4 | あり(P = 0.021) |
| State 3S | 459.2 ± 174.4 | 2448.7 ± 360.8 | あり(P = 0.017) |
| State 4(オリゴマイシン) | 212.2 ± 26.2 | 277.3 ± 29.6 | なし(P = 0.168) |
| 呼吸調節比(RCR) | 3.2 ± 1.5 | 18.9 ± 0.6 | あり(P = 0.0009) |
| 脱共役(FCCP) | 1078.8 ± 134.7 | 1751.3 ± 148.2 | あり(P = 0.023) |
出典1、Table 2。単位は出典の表記では pmol O2 s−1*mg(RCR は比)。± の意味は、出典の Table 2 には明記されていません。
3. 全身の乳酸の産生が高かった(出典1)
出典1は、麻酔下(プロポフォール)の個体に、MRI で追跡できる印をつけたピルビン酸(超偏極 13C ピルビン酸)を 静脈から注入し、それが体の中で乳酸に変わる量を測りました。全身の乳酸/ピルビン酸比は、摂食群で絶食群より平均 421% 高かった (P < 0.0001)と報告しています。完全な測定データが取れたのは絶食 5 頭・摂食 6 頭です(1 頭は注入できませんでした)。体温は約 30℃に保たれていました。
- アラニンや重炭酸への変換は、絶食・摂食のどちらでも検出できなかったと出典1は書いています。 信号が弱かった理由として、著者らは、爬虫類の代謝が哺乳類より低いことを、組織の血流の低下よりもありそうな原因としています(ほかに酵素活性の低さも候補に挙げています)。
- 摂食群では、肝臓の乳酸の信号が心臓より有意に大きかったと報告されています (P 値は、本文では 0.017、図の説明では 0.003 と書かれています)。
- ピルビン酸が臓器に届くまでの時間(血流の指標として使用)は、摂食の有無で有意な差がなかった(P = 0.32)。
- 肝臓の酵素(LDH・PDH)の活性や乳酸濃度にも、有意な差はなかったと報告されています。
4. 食べてから 3 時間で、骨格筋と胃・腸のタンパク質合成が上がっていた(出典2)
出典2は、業者から入手したビルマニシキヘビ(実験全体で 97 頭、平均体重 267.8 ± 102.1 g)を使い、 餌を 4〜6 週間与えない状態にしてから、体重の 15%を、この実験で統一した餌量として食べさせました(特に断りのない限り)。 タンパク質合成は、プロマイシンという標識を取り込ませる方法(SUnSET 法)で、食べてから複数の時点で測っています。
- 食べてから 3 時間の時点で、骨格筋と、胃・腸の組織でタンパク質合成の上昇がすでに見られました。 心臓では変化が見られませんでした。
- 血漿中の遊離アミノ酸(餌からの吸収を反映する)は、最初の 6 時間は低く安定していて、 その後ゆっくり上がりました(測定は 3・6・12・24・48・72 時間、n = 10 頭)。 つまり、栄養の吸収が始まる前に合成が上がっていたと著者らは述べています。
- 著者らは、この早い上昇のアミノ酸の出どころは体内のタンパク質の分解だろうと考えています。 分解を薬で抑えた個体(n = 4)では骨格筋の上昇が抑えられ、アミノ酸を点滴すると戻ったためです。 胃・腸の組織では、同じ薬で上昇は抑えられませんでした。
- 幽門(胃の出口)を縛った個体(n = 3〜4)では、骨格筋と腸の上昇が有意に小さくなりました。 膵臓を摘出した個体(n = 3)では骨格筋の上昇が弱まり、胃・腸では弱まりませんでした。 食後 6 時間・24 時間の個体(体重の 25〜30% の餌)の血漿を、絶食中の個体に注入(出典の語は transfusion。全血ではなく血漿)すると、骨格筋の合成が上がりました (胃・腸では上がりませんでした)。
著者らはこれらから、骨格筋については腸・膵臓・筋肉をつなぐ体液性の経路(gut-pancreas-muscle axis)が関わると示唆(提案)しています。 胃・腸の上昇は、主に管腔内(消化管の中)の刺激によると見られるとされています(インスリンは胃・腸でも合成を上げたが、著者らはその寄与は小さいとしています)。 上の実験は、手術・薬の投与・血漿の注入を伴う、実験室の測定です。
5. 食後 24・48 時間で、5 つの臓器の遺伝子の働きが変わっていた(出典3)
出典3は、業者から入手した 6 頭(体重 180〜700 g、平均 373 g)を 1 か月絶食させ、2 頭は絶食のまま、 4 頭に体重の 25%の餌を食べさせました(24 時間後に 2 頭、48 時間後に 2 頭)。 心臓(心室)・肝臓・胃・腸・膵臓から組織を取り、遺伝子の働き(mRNA の量)を調べています。 各時点 2 頭ぶんの組織をまとめて 1 つの試料にしたため、15 試料(5 臓器 × 3 時点)の解析で、1 条件につき試料は 1 つ(反復なし)です。 遺伝子の選別は統計検定ではなく、倍率と発現量の基準によるものです。
- よく発現している 1,862 個の遺伝子(15 試料の少なくとも 1 つで FPKM ≥ 100)を調べた結果、 臓器ごとに発現の型が違い(主成分分析)、24 時間は、絶食と 48 時間の中間に位置する傾向がありました。
- 主成分分析(PCA)上で、肝臓・腸・胃の変化は、心臓・膵臓より大きく、胃と腸では、絶食から 24 時間の間の変化がいちばん大きかったと出典3は書いています。
- よく発現している遺伝子のうち、厳しい 2 つの基準(発現量 FPKM ≥ 400 と、倍率 2 以上)を満たしたものの数は 心臓 43、肝臓 206、胃 114、膵臓 89、腸 158 でした。変化した遺伝子の総数ではありません。
- 著者らは、食事に伴い代謝に関わる遺伝子の発現が上がっており、翻訳(タンパク質を作る段階)の変化が食後の代謝の上昇を支えているように見える、と解釈しています。
読むときの注意
- 対象はビルマニシキヘビだけです。ボールパイソン・コーンスネークなど、ほかの種について同じことが報告されているとは、ここでは書いていません。
- 実験室での測定です。麻酔下の MRI(出典1)、手術・薬・血漿の注入(出典2)、安楽死後の組織採取(出典1〜3)を含みます。 ふだんの飼育で起きる変化として、そのまま読むものではありません。
- 個体数が少ない研究です。出典1は 1 群 4〜6 頭(臓器による)、出典3は各時点 2 頭(組織をまとめて解析)です。 出典3は、見つかった遺伝子が数百にとどまったのは厳しい基準で選んだためだろうと述べ、また、先行研究との上方調節遺伝子の重なりが少なかった理由の可能性として、反復が少ないことを挙げています。
- 3 つの実験は、餌の大きさ(出典1・3は約 25%、出典2は主に 15%で輸血のドナーのみ 25〜30%)や測る時点が違います。互いの数値を並べて比べるものではありません。
- このページは、食後に何が測られているかの紹介です。
出典
- Hansen, K., Hansen, E.S.S., Jespersen, N.R.V., Bøtker, H.E., Pedersen, M., Wang, T., & Laustsen, C. (2022). Hyperpolarized 13C MRI Reveals Large Changes in Pyruvate Metabolism During Digestion in Snakes. Magnetic Resonance in Medicine, 88(2), 890–900. (DOI: 10.1002/mrm.29239、ライセンス: CC BY 4.0、2026-10-04 確認。 PMC9321735 を取得。Crossref の license(vor)も同じ。)
- Rindom, E., Last, K.B., Svane, A., Fammé, A., Henriksen, P.G., Farup, J., ほか 3 名 (2025). Rapid stimulation of protein synthesis in digesting snakes: Unveiling a novel gut-pancreas-muscle axis. Acta Physiologica, 241(2), e70006. (DOI: 10.1111/apha.70006、ライセンス: CC BY-NC-ND 4.0、2026-10-04 確認。 PMC11760623 を取得。Crossref の license(vor)も同じ。改変せず、出典の値を引用している。)
- Duan, J., Sanggaard, K.W., Schauser, L., Lauridsen, S.E., ほか 3 名 (2017). Transcriptome analysis of the response of Burmese python to digestion. GigaScience, 6(8), gix057. (DOI: 10.1093/gigascience/gix057、ライセンス: CC BY 4.0、2026-10-04 確認。 PMC5597892 を取得。Crossref の license(vor)も同じ。)
上の数値・記述は出典の報告そのものであり、当サイトが測ったものではありません。